シベリア横断9300キロ <3.シベリア編> −1日目−

 よく晴れた朝だった。前日に会社でMS_BLASTウィルス騒ぎでLANが停止したために仕事が中途半端に終ってしまい、同僚に頼んだことが気になって電話した。しかしLANはまだ復旧していないとのことで、わずかに不安を残しながら、自宅を出発することになった。

 昼過ぎ、子供と二人、スーツケースを2個抱えて、呼んだタクシーに乗り込む。ところが発車した直後に大変な忘れ物をしたことに気付いた。暑いので脱いでいたジャケットを家に置いてきたことを思い出したのである。
ヨーロッパは日本と違って20℃前半、朝夕はジャケットを必要とすることもある。また内ポケット(ボタンつき)にパスポートを入れる必要もあるので準備していた。それを忘れては大変、慌ててタクシーをUターンさせることになった。ああ、恥ずかしい。。。

 時間的に余裕を持たせていたので、遅れることなくJRからリムジンバスに乗り継いで一路関空へ。渋滞もないのでやや早めに空港へ着いた。着くとちょうどチェックインの開始を告げるアナウンス。関空からウラジオストック行きは週2便、それも夏しか飛ばないので、ウラジオストック航空のカウンターはキャセイを借用したものだった。
XF806便、ツポレフ154型機
  チェックインを終えた後、すぐに手荷物検査、出国管理を抜けてゲートに向かう。まだ搭乗する時間ではないが、ふとゲートの外を見ると折り返しになる飛行機が到着する瞬間だった。まだ出発まで1時間以上あるので、ちょっと免税店をのぞき、そしてVISAのラウンジで無料のコーヒーを飲んだ。会社の出張用カードがゴールドカードだからラウンジが利用できるのである。
 
 飛行機は定刻どおり出発。だがオンボロツポレフは搭乗してからドアを閉めるまでは冷房が効かない。座って離陸するまで汗がドッと出る。そのためか座席のポケットには団扇が入っている。サービスのつもりなのだろう。
 それにしてもツポレフは滑走距離が長い。おまけにゆっくり高度を上げる。ボーイング727に似た3機のリアエンジンで、相当古びた感じ。トイレの中なぞは内装が一部めくれ、プラスチックの便座は割れたままである。帰りの便の私の座席はリクライニングが壊れていた。
 それでも機は順調に飛行、これまた予定より少し早めにウラジオストックに到着した。しかしここでもまたとんだ大ポカをやる。入国管理で「入国カードを書け」と怒られたのである。そもそもはビザと一緒にホッチキスで止められていた別の紙切れが誤解の原因である。機内でカードが配られた際、私はその紙をスチュワーデスに見せて、これでOKかと訊いた。それに対して彼女が頷いたので、改めて書く必要がないと判断したのである。まあ到着して間もないところで審査官と議論しても仕方がないので、急いで入国カードを書いて無事通過。荷物を受け取った後はX線検査を通した以外はスムースに通過できた。
 税関検査は完全にフリーパス。事前に調べていた3000ドルまでは持込自由という話も、調べられることなく、実質的に無制限と変わりない状態である。

 ロビーに出ると、事前に頼んでいたホテルまでの送迎をしてくれるオッチャンが待っていた。名前は忘れたが気のよさそうな顔つきである。英語はわずかしか喋れない。しかし何とか意思疎通はできた。換金をしたいと告げると、ホテルへ行く途中で換金所(銀行ではないらしい)に寄り道してくれるという。
閉鎖中のホテルの表玄関
ホテル左手の通用口
 しかし不便なところだ。空港から市内まで車で約40分と遠いのに、飛行機が到着しても路線バス最終便は出た後、おまけに銀行は既に閉店。これがわかっていたから出発前に車の手配をしておいて正解だった。
 車はやがて市の中心へ入り、今夜泊まる予定のホテルのすぐ横を通り過ぎて、オッチャンは繁華街のとある建物の前で車を停め、中へ連れて行った。そしてここで金を替えろという。よく見るとカジノの入口だった。銀行よりレートが悪そうな気がしたが、こんなところで文句を言ってもはじまらない。150ドル分の現金が約4400ルーブル(以下”RUB”と略す)に変わった。
ちなみに、出発前に調べたレートは:
 1ドル=約30RUB
 1RUB=4円弱

 予定の「プリモーリエホテル」に着いたが、玄関ではなしに、横の通用口から階段で2階に上がった。オッチャン曰く、表玄関は改装中とのこと。スーツケースを持って階段を上がるのは辛い。
 チェックインのとき、予想通りパスポートを要求される。警察への申告が必要らしい。もちろんモスクワでも要求された。
 部屋に入って荷物を再確認する。また、空港から車に乗る時に貰ったシベリア鉄道の切符2枚をしげしげと眺める(写真は「準備編」に掲載)。いよいよ明日からの長旅、期待と不安が頭をよぎる。

 ちょうど同じフロアーにバーがあったのでビールとジュースを買う。値段を見てびっくり。500CCのビールが30RUB、1L入りパックのジュースが80RUB。食料品などは驚くほど安い。
 シャワーを浴びた後、子供と明日のスケジュールについて話す。列車は夕方17:35発だから、たっぷり時間はある。海岸を歩いて潜水艦博物館などを回るつもりであることを話したが、もうひとつ興味がなさそうだった。
 もうひとつ気になったのが朝食。ホテルの料金には朝食が含まれておらず、外に出て24時間開いているスーパーがあるらしいので、朝早くそこでパンでも買うかと話す。
 そうこうしているうちに現地時間の10時になったので寝ることにする。日本時間なら夜中の12時。経度からいうと、ウラジオストックは広島に近い。しかしロシアの沿海州標準時は、日本より1時間進む上に夏時間が加算されて合計2時間の時差がある。どうも変な感じがする。

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